BRAUN

より少なく、しかしより良く

photo_Yoko Ohata text_Kayo Yabushita edit_Keisuke Tajiri(lefthands)

インタビュー

パイロット 中川 健

1921年にドイツで誕生して以来、世界中で愛され、数多くのクリエイターに影響を与えてきたBRAUN。時代と国境を超える支持を集めてきた背景には、一貫した「Less, but better(より良いデザインは、より少ないデザインである)」のデザインフィロソフィーがありました。では、今の時代を牽引する人たちにとって、BRAUNのデザインはどのように映っているのでしょうか。クリエイターインタビューの第2回目は、国内線のパイロットとして全国を飛び回る中川健氏。パイロットにとって時間とはどういうものなのでしょうか? 「自分と時計は切っても切り離せない」と語る中川氏に話を伺いました。

まずは、男性なら必ず一度は憧れる"パイロット"という職業ですが、中川さんはいつパイロットになろうと決心したのでしょうか。きっかけなどがあればお聞かせください。
昔、小学生のときに家族旅行をしていて、コックピットの中を見せてもらう機会があったんですね。残念ながら今はもうできませんけれど。雲の上を飛んでいて、窓の外には見たこともない世界が広がっていて、「また、ここに来たいな」と思ったんです。
小学生からの夢を実際に叶えられたわけですね。
そうですね。そのときの強い思いにつき動かされました。普通の大学を卒業してから、アメリカのパイロット養成校に入ったんです。パイロットというと一見華やかな世界に思われますけれど、実際はとても厳しい世界で、勉強につぐ勉強で。でも、この仕事に就いて13年経ちましたが、いまだに仕事に行くのが楽しいですね。毎回乗るたびに、お客さんも、シチュエーションも違うので、飽きるということがありません。
では実際、パイロットの方はどういったスケジュールで働いていらっしゃるのでしょうか?
だいたい月に15~20日のフライトをこなしています。1本のフライトを1レグというんですけれど、1日に2~4レグ飛んでいます。行き先は、北は北海道から南は九州まで、文字通り全国の空を飛び回っています。地上勤務も最近は増えましたが、月の半分は出張先で宿泊することになります。空港によって違うんですが、羽田や成田だと、出発時刻の1時間20分前に集まって、天気図や航空情報などをチェックします。上空を吹く風の向きは毎日違いますし、使う滑走路の向きもひとつではありません。毎回異なる条件下で、定時に出発して、定時に到着しなければならないというのが一番難しいですね。
もし遅れが生じた場合、飛ぶスピードで調整したりするのでしょうか?
飛ぶスピードは、調整したとしても1~2分くらいしか変わらないんです。実は今日のフライトも、霧で100m先が見えないという状況だったんですが、そうした場合、管制官が一機一機の間隔を開けざるを得ない。そうすると当然遅れに繋がるわけです。ほかにも、翼上に雪が積もっている場合、それを融かすために薬品をかけるんですが、大変な状況になる前に、その散布作業車をあらかじめ押さえておいたり、一番風の影響の少ない航路を考えたりと、あらゆるパターンを想定して、遅れないようにプランニングします。それがパイロットの役目でもあり、この仕事の醍醐味でもありますよね。
なるほど。乗客側からすると定時が当たり前だと思っていましたが、パイロットの方の機転や判断によって、時間が守られているわけですね。
コンピューターが飛行機の管理をしていると思われがちですが、実際はすべてを依存しているわけではないんですよ(笑)
お伺いするまでは、てっきりもっとオートメーション化されているものだと思っていました。乗客の安全と、時間の正確さを保持するために、中川さんが心掛けていることがあれば教えてください。
常に、同じテンションで仕事に取り組むことでしょうか。日によって気分が変わることもどうしてもありますよね。今日はあんまり気力がないなとか、反対にすごくやる気満々だったりだとか。そういった気分のムラを極力抑えて、常に同じテンションで、安全に対して同じ視点を確保するように気をつかっています。
では、そのテンションを保つために何をされているのですか?
よく寝ることですね。睡眠はとても大事です。睡眠不足のままフライトに出るということは決してありません。逆にテンションが上がりすぎているときは、ある程度のところで抑えて、一定のテンションに保つようにします。
渡航先でも、普段と変わらず睡眠をきちんと確保するのは、大変なのではないでしょうか?
一番は早く寝ることですね。朝3時に起きる場合ですと、前日の20時くらいには寝ないとダメなんです。ちょっと飲み過ぎたから……というのは許されませんからね。その代わり、休みの日は全力で休みます。そのメリハリがあるから、厳しく自己管理ができるのかもしれませんね。
お聞きしていると、パイロットの方は時間に正確であることも大切かと思いますが、オンオフのスイッチの切り替えや時間をやりくりすることに長けている気がします。
そこは気をつかっています。まだ訓練生の頃、集合時間に1分遅れたことがあったんですが、そのことで教官に1時間怒られました(笑)。この仕事をやっていく人間が何をやっているのか! と。不可抗力だったとしても、その1分が命取りになるんだということを叩き込まれましたね。いまこの仕事をしていて、その遅れた1分を取り戻すのって、本当に大変なんです。だから、時間を管理するうえで、時計はとても大事な存在ですね。
その良き相棒となる時計ですが、渡航先での目覚ましはどのようにされているのですか?
いつもトラベルクロックを使っています。実は、その前はホテルの部屋のアラームとモーニングコールを併用していたんです。けれど、ホテルの部屋の時計は、平気で5分くらい遅れていることもあるので、併せてモーニングコールも予約をしておくんですが、あるとき、夜中に停電があって予約がすべて消えてしまっていたんです。
そのとき、どうされたんですか?
幸いなことに、僕はだいたい鳴る前に起きてしまうんですね。出張中は気が張っているのか自然と目が覚めてしまって。だから大丈夫でした。携帯電話の目覚ましを使ったこともありますが、寝る時間が人より早いので、電話やメールの音で起こされてしまうんです。だから寝るときは、携帯の電源を切ってしまうようにしています。様々なものに時計やアラーム機能が付いていますが、自分や時間を管理するという意味では、やはり時計そのものが欲しいですね。
BRAUNのトラベルクロックが18年前に発売され、今年まったく変わらない形で復刻しました。
懐かしい!やっぱり格好いいなぁ……。実は、だいぶ昔に同じものを使っていたんですが、私と同じくらい、このデザインに夢中になった友人に譲ってしまったんです。でも、やっぱりどうしてもこのデザイン以上にしっくりくるものがなくて(笑)。買い直そうと思っていたところ、廃盤になってしまっていたんです。こうして久しぶりに出会えて嬉しいですね。
デザインはもちろん、モーションセンサーなどの機能も当時と変わらず搭載しています。改めてご覧になっていかがでしょうか?
枕元で時計を探すことがあるんですけど、モーションセンサーがついていて、時計に触れずともライトが点き、止めることができるのには驚きましたね。ボタンを押そうと探しているうちに落としたりするのは、スマートじゃないですから。可動部が多いと故障に繋がりやすいっていうのは、僕たちの基本的な考え方でもあるんですが、モーションセンサーだったらボタンを押す機会も少なくなりますし、落とす心配もないので長く使えますよね。
道具として、より使いやすさを目指しているともいえますね。
「It is as simple as it should be」っていう言葉があるんですけど、それが「あるべきものはシンプルになる」というような意味で。特に時計というのは計器盤と同じで、必要なのは、とにかく見やすさと信頼性だと思うんですね。特にデジタルとアナログって違った良さがありますけど、アナログだと視覚的、直感で時間がわかるのがいい。信頼性という意味では、バッテリーチェックシステムがあるのも心強いです。この機能があれば、「時計が止まっていました」っていう、遅刻の言い訳ナンバー1が使えませんが(笑)。あとは、単3電池1本で動くというのも嬉しいですね。単3なら世界中どこでも買えますし、軽いですから。
旅先で、軽さは大事ですよね。
いつも持ち歩くフライトバッグはとても重いので、少しでも軽いのはありがたいです。とはいえ、軽さと同時に堅牢性も大事です。このトラベルクロックならフタがついているので、無造作にバッグに入れても風防が割れる心配もなくて安心だし、コンパクトだからバックのすき間にもぐりこませることもできますし、ベッドサイドに置いても邪魔にならない。そういった意味で、このトラベルクロックは、必要な機能をすべて満たしていると思います。
デザインはいかがですか?
実用的でありながら、シンプルな機能美を感じますよね。実は、飛行機も同じなんです。コックピットは計器やボタンが多いように見えますけど、ひとつのボタンにひとつの機能しかついていないんですよ。たとえばスマートフォンは、ひとつのボタンにいくつもの機能がありますけど、そのボタンが壊れたら複数の機能に支障をきたしてしまう。飛行機の場合、ひとつのボタンが壊れたとしても、障害はひとつだけ。しかも、ほかのボタンからアクセスできるようになっているんですね。"リダンダンシー"といいますけれど、そうしたバックアップ体制があるんです。
なるほど。リスクが分散されているんですね。
前に乗ってた機種なんかは典型的で、すべてのボタンの形が違ったんですよ。ひねるスイッチの形が丸だったり、四角だったり、円錐だったり。たとえば夜飛んでいて照明が落ちたとしても、これはあのボタンだなっていうのが、手探りでわかるようになっていたんです。
人間工学に基づいた機能デザインですね。BRAUNも"BRAUNカラー"といって、黒をベースに、緑、赤、黄色が機能別に使われていて、世界中の誰が見ても、どの色がどのボタンだというのがわかるような作りになっています。
なるほど。コックピットと同じで、使っているうちに意識しなくても自然とわかるようになっているんですね。結果として、ディテールのデザインがBRAUNのポイントにもなっている。そういう意味でも、時計って誰もがすぐに使えるシンプルさが一番ですよね。シンプルだから使いやすいし、美しい。このトラベルクロックは、まさに理想的だといえます。パイロット仲間にはもちろん、友人にも旅行用として、ぜひ勧めたいですね。もちろん、私の最初のBRAUNクロックを譲った友人にも(笑)。
  • 中川さんの選んだ商品
  • BNC005BKBK
  • 5,460円(税込)
青野 賢一
1971年、福岡県生まれ。米Nelson Aviation College卒業。国内線パイロット/機長として、北は旭川から南は沖縄まで、37の空港を結んで飛行する。
編集後記
パイロットとは、航空機の操縦士であるだけでなく、実はフライトタイムという「時間をマネジメントするプロフェッショナル」でもあることを知った、今回のインタビュー。刻一刻と変わる天候や管制状況の下、航空機をオンタイムに発着させることの難しさ。そしてそのために、自らの生活をもストイックに律する中川さんの姿勢に、深い感銘を受けました。 特に印象深かったのが、リスクヘッジに関するエピソード。航空機の計器類が、1つのスイッチに1つの機能しか持たず、さらに万一の故障の際には他のスイッチからも操作できるという話は、最も洗練された機能主義と、リスクマネジメントの考え方についての含蓄に富んでいました。 そんな中川さんがBRAUNクロックを選んだことは、決して単なる偶然ではありません。いついかなる環境においても正確な時を知らせてくれることは無論、軽量で、高い操作性、視認性、耐久性を備え、しかも電池残量がチェックできるという点において、中川さんは真に信頼に足るプロフェッショナル・ツールとして、BRAUNクロックを評価しています。 もうひとつ、「less, but better」の哲学に根差してつくられたBRAUNの製品には、削ぎ落とされた「機能美」という付加価値も備わります。中川さんも、卓越した機能性だけでなく、この機能美からもたらされる「持つ喜び」について、言及していました。BRAUNクロックが、出張や旅行用としてはもちろん、日常使用でも多くの愛用者を持つのは、インテリアに本物のみが持つオーラを与えてくれるプロダクツとして認められているからではないでしょうか。